Utsuwa Labo

Battle The 24cm Plates

Masahiko Yamamoto VS Takuya Kanamoto

2人の陶芸家が7寸の器対決!レポート。
-December 01, 2018 At Utsuwaya yuuyuu

2人の陶芸家が”意識し合うことで生まれた”新しい器。

あまり類を見ない「陶芸家2人による同じサイズの器を作る」というTHE対決が行われた。個展やグループ展とは違った新しい器の発表をレポート。

ー THE対決は、サイズも価格も同じでどちらの器が売れるのか。
陶芸の世界では、個展やグループ展といった器を発表する場がある。しかし、個展では、作家は自分と向き合うもので、グループ展は、ある程度のテーマはあるものの、その時々に作っていた作品を出品するということが目につく。僕が見たいのは、もっと強烈で鋭く、意識が器全体に行きと届いているものだ。こんなことを思いながら、二人の陶芸家を食事に誘った。今勢いのある陶芸家二人の話は、やはり陶芸談義なり、言葉に熱量がこもり、眼光も鮮やかに輝いているのがわかる。ふと、この二人に同じ規格の器を作ってもらうとどうなるか?と尋ねてみた。しかも、価格も同じで継続して作れるものという、いじわるな設定もつけて。食事の席でのこともあって、二人は快く承諾してくれた。10分後に「ほんとにやるの?」という言葉を添えて。
ー 製作経過の中での取材。
器の制作期間中に、一度取材をさせていただくようお願いしていたので、二人の工房にお邪魔させていただいた。最初に山本雅彦さんの工房を訪ねた。今回の対決に、彼は新しい土と、新しい釉薬で、挑むと言う。対決の企画について尋ねると、対戦相手の金本卓也さんから電話があったらしく、「金本さんは、テクろかな(装飾や技法で攻める)。と言ってましたよ」と笑いながら答えながらも、「自分はもっとストレートで、自然に溶け込むようなものを作ろうと思ってます」と答えてくれた。まだ、工房にお邪魔した時点では、釉薬の調整をしている段階だったが、彼には、もう完成のビジョンが見えているようだ。

陶芸家・山本雅彦さんの工房よりろくろ風景。

ー 製作経過の中での取材2。
一方の金本卓也さんの工房へ取材に行くと、若干の苦笑いも含みながら、取材に答えてくれた。「最初は、技で魅せるような器を作ろうと思ったんだけど・・どうも納得いかなくて。」と金本さんは話を切り出した。工房には、今回のために作られた数十点のサンプルであろう未完成の作品が転がっている。「やっと今、これかな?っていうコンセプトが見えてきたんです」と話してくれた。金本さんにも対決の企画について尋ねると、「対決っていう言葉を使わんでも、作品が横に並ぶだけで、思いっきり意識するから、どうなんねやろ?って感じですね」と心中を語ってくれた。この後、2人の陶芸家は、入稿期日ギリギリまで作品を追い込んでいく。
ー THE対決のポイントは5つ。
THE対決の面白いポイントは5つ。1つは同じサイズで同じ価格ということにより、大きさや価格でのインパクトを省かれる。2つめは、継続して作り続けれるもの。これにより、器にある一定の基準値ができ、現在の作家が持つポテンシャルが見れる。つまり、後々に再現できない作品ではなく、器すべてに意識が届いているもの。3つめは、相手を意識し合うという事により、より良い作品を作りたいという想いが生まれる。4つめは、決められた時間。制作時間は2ヶ月とし、24時間で販売。そこで売れなければ勝敗が決まるというルール。5つめは、もちろんお客様が判断するという点。今回、お一人様一点のみの購入というルールもつけさせて頂いた。この制約の中で、2人の作家は、どんな器を作り上げるのだろうか。

陶芸家・金本卓也さんの工房より器の思考。

”新しい緊張感”の中で、作り上げていった二つの対極する器。紺碧 Lake Platesと大和織部Deep Dish。

ー 作品の入稿日。
作品の入稿日は写真撮影のため販売1週間前に定め、入稿当日に2人の陶芸家は、出来上がって間もない作品をギャラリーに納めにやってきた。その顔から取れる表情は、まず作品が出来上がったことの安堵と達成感に溢れていた。まだ、これから控えている作品発表の場の緊張感は感じられない。しかし、お互いの作品と対面していくことで、2人は少しずつ緊張感が増していくのがわかった。ここからは、2人の完成した器を見ていこう。
ー 山本雅彦さんの紺碧 Lake Plates。
今回の対決が決まった時点で、新しい土と釉薬とで、新しい器を発表すると決めていたと話す山本雅彦さんの器は、予告通り、今までのシリーズにはない、紺碧と名ずけた器を披露。彼の好きな湖をイメージしたという紺碧の釉色は、淡い蒼と水しぶきのような斑紋で構成されており、料理を盛り付けると、まるで湖の畔でゆったりとした時間を味わいながら食事をするような気分に。
ー 金本卓也さんの大和織部Deep Dish。
制作過程に行った取材でも使い慣れた土を使いながらも、組み合わせを変えて今まで作ったことのない器を作ると語ってくれていた金本卓也さん。今までの和食器として発表していた大和織部を洋食を盛ることを前提に制作した大和織部Deep Dishは、パスタなどを盛り付けやすいようにあえて深く制作し、大和織部特有の荒々しい土肌を見せる。織部の釉調もあえてムラができるように制作し、和食器の良さと洋食器の良さを持ち合わせた器に仕上げられている。

多くの作家たちも見届けた対決の日。期待と不安の中でスタート。

ー 発売・発表は20:00PMスタート。
対決当日は、ネット販売もあり、20:00PMにスタート。多くの他の作家も作品が気になるようでスマートフォンやPCの前でこの対決を見届けていた。作品を販売するうつわや悠々としても、こんな企画は初めてて、作家同様に緊張感に包まれていた。はたしてお客様は見にきてくれるのか。どちらの作品が売れるのか。期待と不安を抱えながら20:00PMを迎えた。
ー 開始30分でソールドアウト!
時計の針が20:00PMを回ったすぐにスタッフから、「金本さんの器が売れてます!あっ、山本さんの器も!」。画面を更新するたびに、売れていく両者の器。一日の売れ行きで勝敗を決めようとしていた企画が、結局約30分で両者の器が完売となった。
ー 対決を終えて。
両者に完売したことを即伝えると、興奮冷めやらない状態で、後日、別の日に食事の機会を作ってもらった。2人に対決を終えてどうだったかを尋ねてみると、作ってる時は、やはり不安もあったという。だけど、負けたくないっていう気持ちと、いいものを作らなければ、お客さんに評価してもらえないという気持ちが、自分をギリギリまで追い込んでくれたという。これからこの器を、どう再現して、また育てていくかが、これからの仕事ですと、晴れやかな顔で答えてくれた。